「災難」(横溝正史)

事件かと思えば…、というコントです。

「災難」(横溝正史)
(「横溝正史ミステリ
  短編コレクション①」)柏書房

「災難」(横溝正史)
(「恐ろしき四月馬鹿」)角川文庫

恋仲だったおしんが奉公のため
大阪に上がってくるという。
妹から駅に迎えにくるよう
頼まれた「わて」は
勇んで出かける。
七年ぶりに会うおしんは、
見違えるような
器量よしになっていた。
「わて」は大阪の町を
おしんに案内するが…。

横溝正史の初期の短編には、
ミステリというよりも
コントと呼ぶべき作品が多数あります。
本作品もその一つです。
懐かしさのあまり
大阪の町を浮かれ気分で案内し、
恋しさのあまり
秘めていた自分の気持ちを打ち明け、
愛おしさのあまり
一晩を一緒に過ごそうとした
「わて」ですが、その直後、
おしんは姿を消します。
事件かと思えば…、というコントです。

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【主要登場人物】
「わて」(片田源三郎)
…語り手。十七で田舎を捨て、大阪へ。
 恋仲だったおしんを迎えに
 大阪駅へ出向く。
おしん
…奉公勤めをするため大阪へ上る。
 一度結婚したものの離縁され、
 家を出る。

本作品の味わいどころ①
大阪弁一人称告白体の面白さ

「まあ聞いとくなはれ、
 わても十七の時から田舎を
 飛出して…」から始まるように、
全文が「わて」の一人称告白体で、
それも大阪弁で編まれた一作です。
まるで落語か講談を
読んでいるような味わいであり、
とても横溝が書いたようには
思われません。
「わて」の失敗譚なのですが、
それがなんとも間抜けであり、
コントとして一級の出来映えと
なっているのです。

本作品の味わいどころ②
なんと自分が事件の渦中に

それでも横溝の作品です。
「わて」による大阪案内が、
実は一つの「事件」として
翌日の新聞に掲載されていたのです。
「わて」は自分でも全く気づかないまま、
事件(未遂)の犯人として
扱われていたのでした。
さて、どういうことか?
ぜひ読んで確かめてください。

本作品の味わいどころ③
おしんは実は…

当然、「わて」が大阪駅で接触した
おしんは別人だったのですが、
では本物のおしんと
なぜ遭遇できなかったのか?
数日後、おしんからの手紙で
事実が判明します。
今となっては
起こりえない状況なのですが、
本作品が書かれた1926年では
あり得たのでしょう。それは…。
その謎解きよりも、
最後の一文が笑わせます。
「そらあんた、
 偽物のおしんちゃんには
 とても敵わしまへん。
 しかしなあ、あんた、
 人間はきりょうより
 気だてが第一だっせ、
 気だてが第一だっせ」

七年たっても、本物のおしんは
決して器量よしには
なっていなかったのです。

横溝の初期作品を読むたびに、
横溝は長編本格推理ではなく、
短編の名手だったのではないかと
思ってしまいます。
「八つ墓村」「獄門島」からは
想像できない横溝の初期作品の世界を
ご堪能ください。

※柏書房
「横溝正史ミステリ短篇コレクション
 ①恐ろしき四月馬鹿」収録作品一覧

恐ろしき四月馬鹿
深紅の秘密
画室の犯罪
丘の三軒家
キャン・シャック酒場
広告人形
裏切る時計
災難
赤屋敷の記録
悲しき郵便屋
飾り窓の中の恋人
犯罪を猟る男
執念
断髪流行
山名耕作の不思議な生活
鈴木と河越の話
ネクタイ綺譚
夫婦書簡文
あ・てる・てえる・ふいるむ
角男
川越雄作の不思議な旅館
双生児
片腕
ある女装冒険者の話
秋の挿話
二人の未亡人
カリオストロ夫人
丹夫人の化粧台

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👀 Mabel Amber, who will one dayによるPixabayからの画像

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